システム開発系のIT紛争を、裁判所での訴訟から専門調停に移行して解決した事例です。

 事案   システムベンダのA社は、通信機器メーカであるB社から、ERPパッケージをベースとする販売管理システムのカスタマイズ開発を、7500万円で受注しました。開発途中にカスタマイズが当初の想定を超えて膨らむ見込み違いはあったものの、約10か月の期限内にシステムを納品、ほどなくB社の検収も完了しました。ところが、本稼働の直前になって、B社は、納品されたシステムが委託倉庫での在庫管理にまったく対応できていないことが判明したとして、代金支払を拒否し、契約を一方的に解除してきました。A社としては寝耳に水の話であったので、部門長と担当役員が特命担当となり、B社と計10回以上に及ぶ協議を重ねましたがまったく進展せず、ITSに訴訟を委任することになりました。

 解決  既に当事者間の協議が尽くされた後だったため、ITSでは早々に訴訟提起したうえ、専門調停に移行するよう裁判所に働きかけました。B社が解除の理由としている在庫管理の問題が鍵となると考えたためです。この点を、6回の調停期日を使って互いに主張、立証したところ、開発が始まる直前にB社が吸収合併した会社の倉庫での管理方法が当初想定のものと大きく異なること、その点B社の担当者はERPパッケージのオリジナル機能で対応可能と考えていたこと、さらに、A社からの問合せに対しても機能自体不要と回答していたことが分かりました。調停委員からは、A社の勝訴ベースで考えざるを得ないとの見解が示され、その結果、B社が6500万円を支払う和解としたうえで、新たに2500万円で問題の在庫管理方式への対応を行う契約を別途締結することになりました。

 ポイント  B社が解除の理由としていた在庫管理の問題は、開発に入ってから殆ど話に上っていなかったため、その点の具体的な内容ややり取りの経緯が解決の鍵となることは明らかでした。そのため、訴状もその点に絞って争点を明確にしたうえ、専門調停への付調停の希望を出しました。当事者間の協議が不調で裁判にまで持ち込まれた場合、本件のように、(執行ができない)将来の関係が予定された合意がなされることは稀です。本件の場合は、在庫管理の問題を除けば納品したシステムの機能・品質が十分であったことのほか、専門調停の中で、責任関係がかなり明白に現れ出たこと、問題の在庫管理方式への再カスタマイズが見通せる程度に技術的な検討も行われたことから、このような解決が可能となったものです。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。

業務提携しているベンダとの関係修復に際して、裏方からの支援を行った事例です。

 事案   不動産コンサルのA社は、この分野に長い経験のあるシステムベンダのB社と組み、共同で物件提案システムのベースを開発しました。そして、A社がエンドユーザと契約して行ったコンサルティングの結果に基づいてB社に同システムのカスタマイズを再委託する、という業務提携で数件の実績もありました。しかし、超過コストや品質のトラブルが続き、提携解消の可能性も出てくる中で、ベース・システムの著作権問題にまで発展してしまいました。A社としては、当面の問題を解決しないことにはプロジェクトの採算が望めないことから言うべきことは言いたい一方で、B社以外には十分な力量を持ったベンダはいないため、本格的な紛争化は避けたいという悩みがありました。そこで、調整・交渉にはA社自身が臨む前提で、ITSにバックヤードでの支援を依頼しました。

 解決  ITSは、超過コストの負担関係、品質問題の責任関係、著作権の帰属について、資料とヒアリングに基づき一定の分析を行った上で、提携関係を維持・発展させることを前提に、双方の担当役員及びプロジェクト責任者が関わり、週1×6回で基本線を出す「戦略会議」を持ちかけるよう提案しました。B社も応じたこの会議では、重要問題のみ過去の振り返りを行って、将来の提携関係のベース作りに注力しました。その結果、提携関係におけるB社の責任部分を将来の委託条件に反映させた確認文書(基本合意書)の締結に至りました。ITSは、この間、提出された資料の分析、戦略会議のプランニング、事前打合せ、事後打合せ、2回の経営会議への出席、確認文書の起草と調整、そして、合意後も新たな提携関係が安定化するまでの間若干の継続相談を行いました。

 ポイント  訴訟に至ってしまえば弁護士が前面に出て訴訟追行することになりますが、それ以前の紛争段階では、実は弁護士が表に出ない方が解決の糸口を掴みやすい場合があります。(弁護士にとってはやや残念なことですが)当事者同士の方が、対決姿勢が鮮明に現れず、また、金銭や「やる/やらない」といった単純な「交渉」ではなく、技術的課題や将来展開など、具体的な「話し合い」をする余地が大きいためです。そうした場合でも、法的な部分でのミスジャッジを防いだり、駆け引きの部分での助言を得たりするため、「参謀」としての弁護士からバックヤードでの支援を受けることは有益です。これによって、紛争解決に専門的なノウハウを取り入れて質を上げながら、コストの低減を図ることができます。

smart_display和解の基本合意書の例

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。

営業秘密の侵害について、相手方との直接交渉により示談した事例です。

 事案   精密機器のメーカーであるA社は、ある時インターネットのブログ上に、機密としていた自社ノウハウの一部が掲載されていることを発見しました。ブログの内容やその他の調査情報から、この1~2年にA社を辞めた元従業員のうちの誰かが、自ら関与していた技術を持ち出して、これをベースにした製品開発を手掛けるベンチャーを設立しようとしているらしいことが分かりました。明らかにA社の営業秘密の侵害で、もし製品が販売されてしまえば、A社の権利利益が大きく害されてしまいます。しかし、この段階では、実際の侵害者が誰であるのか特定することすらできず、ブログでの機密の漏えいを黙って見ているしかありませんでした。そこで、A社は早期解決のための示談交渉をITSに依頼しました。

 解決  ITSは、まずブログ運営会社に対し、同社の規約に基づく記事の削除を依頼しました。幸か不幸か、営業秘密の記載が明白だったため、裁判外の請求で記事は直ちに削除され、ひとまず二次漏えいを止めることができました。次に、侵害者を特定するため、問題のブログの発信者情報の開示を求めました。これについては任意の開示は得られなかったものの、すぐ仮処分に切り換えて申立てたところ、開示されたIPアドレスが元役員のBから来たメールの送信元と一致したため、直ちに事実上の特定ができました。ここまでの調査結果を基に、B及び、最終的にはBと組んでベンチャーを企画していたCも交えて直接交渉し、結局、退職金全額相当の損害賠償金と、ノウハウの使用は許容することと引き換えの割増ロイヤリティーを支払う内容の示談で決着しました。

 ポイント  A社の営業秘密を利用した製品が市場に出る前の解決が急がれた事案です。そのため、出来るだけ裁判外での早期進展を目指しましたが、その意味では、Bがブログで得意げにノウハウを開陳していたことや、電子メールのアドレスとの一致から1回の開示請求でBを特定できたこともあり、想定以上の早期の示談が実現できました。示談において、Bらによる営業秘密の利用を認めたのは、製品自体はA社のビジネスと競合しなかったこと、製品開発はほぼ完了しておりその販売を許した方が賠償等の原資を確保し易かったこと、B自身に利用させた方がノウハウの二次流出の抑止になると考えられたためです。ベンチャー立上げを願っていたCも加わったことにより、交渉は非常に有利なビジネス交渉の様相を呈していました。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。

システム障害についての交渉を始める前に、事案の見極めをするために鑑定を行った事例です。

 事案   システムベンダであるA社は、十年来のつき合いのあるB社の新ウェブシステムの構築を5000万円で請け負い、本稼働にこぎ着けました。ところが、本稼働に入ってみると、画面遷移やデータ更新といった基本的なところで次々とバグによる障害が発生し、業務に大きな影響を与えました。原因は、納期に間に合わせるために急遽投入した再委託先の担当者の能力が十分でなく、テストに大きな漏れがあったことで、A社の責任は明らかでした。B社の担当役員は怒り心頭で、A社に1億円の損害賠償を求めてきました。A社は、B社に迷惑をかけたこと、相当の損害を与えたことは事実だとしても、賠償額の1億円はあまりに途方もない金額だったので、何度もA社と話し合いを持ちました。しかし、B社の担当役員は、「倍返しだ」、「これくらい当たり前だ」と言うばかりで解決の糸口すらつかめませんでした。そこで、A社はITSに、賠償すべき損害額として幾らが妥当なのか、鑑定を依頼しました。

 解決  ITSは、簡易鑑定として、要件定義書や障害一覧などの必要資料の提出を求めたうえ、A社の責任者と主担当者へのヒアリングを2回行いました。そして、法的に賠償すべき損害を、データ補正のための外注費と直接的な売上キャンセルによる逸失利益を中心とする450万円~600万円と算定しました。A社は、この簡易鑑定を基に、「法的に責任を負うべき損害については、支払う用意がある」として、再度B社と交渉しました。結局、A社は、トラブルに対して正式に謝罪するとともに、損害賠償として500万円を支払うだけで済みました。B社の言い値の20分の1だったわけです。また、ITSの指導の下、品質管理・再委託先管理を中心とした再発防止策を構築したところ、間もなく、その成果を評価したB社との関係も回復し、新たに拠点間販売管理システムを受注する運びとなりました。

 ポイント  ベンダに責任のあるトラブルによってユーザに損害が発生したことが明らかな場合でも、法的に賠償すべき損害が幾らであるかは、実は極めて難しい問題です。交通事故に伴う損害賠償のように、一般的な基準(相場)が形成されている分野と異なり、IT紛争では損害賠償も「カスタムメイド」なのです。トラブル対応に追われた従業員の慰謝料のようなものは入るのか、逸失利益はどこまで含まれるのか、当事者同士での交渉を難しくします。また、訴訟となった場合に、賠償の対象となる損害を立証することは、思いのほか困難であることも考慮に入れておかなければなりません。そのような場合に鑑定サービスによって「もし裁判したとすれば、結局幾らになるのか」という落とし所を知っておけば、交渉にもブレがなくなりますし、訴訟など次のステップに進む必要性やタイミングも計りやすくなります。

smart_display損害賠償額の鑑定書例

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。

裁判で主張された「プロトタイピング」の争点についての証拠とするために、IT鑑定を行った事例です。

 事案   新進のアパレル企業であるA社は、本社システムと接続できる店舗でのリアルタイム商品管理システムの開発をシステムベンダのB社に委託しました。開発では若干の打合せも行われましたが、明確な工程感や確認のないまま進み、実際の画面等が出来上がってくる段階となりました。ところが、A社の担当者がこれを試用してみると、細部以前に必要な機能、あるいは考え方そのものが要求と異なっていることが分かりました。そのため、テストを中止し、B社に要件定義からやり直すよう求めました。しかし、B社はこれに応じず、現実に出来ている画面等の確認を求めるばかりで、議論はすれ違いのままでした。2か月ほどの音信不通の後、B社は「実質的に完成している」として、開発代金4000万円を求めて提訴してきました。訴訟の中で、B社は「プロトタイプが完成し、A社の確認を求めていたのにA社がこれに応じなかった」と主張し、これが争点となりました。A社では、裁判所からの示唆もあり、プロトタイピングについての鑑定をITSに依頼しました。

 解決  開発時にはプロトタイピングのような話はまったく出ていなかったので、それ自体が「主張のための主張」と思われましたが、実際に鑑定作業を進めてみると、その通りでした。そこで、プロトタイピングは本来は上流工程でユーザ要求を把握するものである、これを繰り返して完成に至らせる場合でも、最終化までのロードマップが必要である、開発方法の如何によらずテストはいずれにしても必要である、という基本的な考え方を述べたうえ、本件での具体的事情から、計画的にプロトタイピング手法が用いられたものとは考えられないとの鑑定意見を出しました。訴訟は結局、判決まで行きましたが、きちんとした工程計画のない中で、十分な設計やテストを欠いたシステムが作成されただけということで、完成とは認められず、B社の請求は棄却となりました。判決理由がかなりはっきりしたものであったこともあり、B社が控訴してくることもありませんでした。

 ポイント  訴訟では、証拠と事実の間を経験則で埋めますが、IT関係の訴訟の場合、その経験則がITの専門性に隠れてしまって、有効な立証がしにくい場合があります。この事案では、「テストやユーザ確認が未了のシステムが一応できている」という同じ状態が、ウォーターフォールでの作業が途中で止まってしまった状態なのか、プロトタイピングでの作業が一段落した状態なのかが争われたわけですが、「プロトタイピングとはどのようなもので、どのような場面でどのように行われるか」が前提として与えられないと判断がつかないのです。IT関係者であれば、あるレンジでは共通理解に立てそうですが、実務でも極端な考え方(の持ち主)がないわけではありません。ましてや、裁判での厳密な立証となると、理解の溝を埋める客観的なものが必要になってきます。このような場合にも、IT鑑定は役立ちます。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。

共同開発に関する訴訟と並行して、和解を進めるためにIT鑑定を行った事例です。

 事案   ウェブ系の開発ベンダであるA社とB社は、懸賞ビジネス向けポータルサイト・フレームを共同開発することにしました。それぞれの強みを生かす形で、A社は主にウェブ制御技術を、B社は主にデザイン・コンテンツを持ち寄って開発を進めていましたが、次第に製品コンセプトに関する見解の違いが広がり、それぞれが独自の開発を進める事態となってしまいました。その後、両社はそれぞれの特長を持った独立の製品を完成・販売し、ニッチ市場ながらマーケットを二分するに至りました。しかし、当初の共同開発契約は事実上破棄されており、互いが利用し合っている技術やコンテンツについての(主に著作権の)許諾も消滅した状態です。A社はB社の製品の販売差し止めと損害賠償を求めて提訴、B社もA社に対して同様の反訴を提起しました。訴訟は泥沼化しましたが、判決に至れば本訴・反訴とも認容となって、ビジネスの停止を来すことは目に見えています。そのため、訴訟の内外で和解のための話し合いが進められていましたが、その中で、A社がITSに和解のための鑑定を依頼しました。

 解決  両社の製品は、同一市場ながら基本的なコンセプトが異なっており、それぞれの顧客を獲得していた状況であったため、いまさら共同開発に戻して製品を一本化する選択肢はありませんでした。つまり、両製品の将来にわたっての併存を認めたうえで、双方が拠出した技術やコンテンツの価値をライセンス料として評価し、これを授受し合う以外に解決はありません。そこで、ITSでは、問題となっている技術やコンテンツの客観的価値、これが各製品に占める寄与度を算定して、売上規模に応じたライセンス料に引き直しました。同時にB社側でも、同様の鑑定意見を出してきましたが、差異は調整できないほど大きいものではありませんでした。両社は、これらの鑑定意見を基に協議を重ね、結果的に、A社側の鑑定意見に近い水準のライセンス料を授受することで裁判上の和解に至りました。

 ポイント  和解交渉に鑑定が用いられたわけですが、早期和解に漕ぎ着けてビジネス停止を避けるため、双方がより納得し易い客観性・合理性が特に重視された事例です。鑑定では、単なるライセンス料の算定だけでなく、ビジネス的な視点を加えて、両社の理解と納得を得易いものになるよう、工夫がなされました。例えば、両製品の市場シェアに応じて、当初の共同開発が継続していたと仮定した場合と比較して利益がどのように変わるか、といった試算もなされました。両製品とも市場でそれなりに成功しており、「プラスのパイ」が目の前に見えていたことも、和解協議においては幸いしました。両社は、同一市場でそれぞれの製品をもって「我が道を往く」競合企業ではあり続けたものの、相手製品の売上によってもライセンス収入が上がるようになったことから、その後一定程度の協力関係を回復したようです。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。

新システムの提案の費用対効果について、助言型のシステム監査を行った事例です。

 事案   独立行政法人であるA法人は、ホスト・コンピュータの保守停止に伴うシステム・コンバージョンを、予算上の制約からウェブ系システムへの単純移行と計画していました。しかし、RFPを提示していたベンダの一つであるB社から、事業の状況に合わせて新規構築するという代案の提案を受けました。A法人では、法人事業の変革への対応やオペレーション・コストの低減要請のある中、この機にそれらの問題をクリアできる代案に強い魅力を感じました。ただ、新規構築には新たな予算上の手当が必要であり、費用対効果を厳しく見なければならないため、明確な決断が下せないでいました。そこで、ITSにB社からの提案の費用対効果について、妥当性検証を依頼しました。

 解決  B社の提案は、効果に関する見積は比較的正確だったのに対し、費用のうち、導入後の保守について、毎年法令改正による影響を受けるというA法人の業務特性を過少評価している可能性があることが分かりました。他方、そのような業務についてのシステムをそのまま単純移行しても、保守費の問題は解消されないため、一部の業務については、システムのあり方そのものを検討すべきことを指摘しました。その結果、A法人では、業務に変動の少ない大量反復の基幹部分と、変動要素の大きい周辺部分とに分け、前者については単純移行を、後者については(必要であれば手作業を組み合わせた)EUCを取り入れた新規開発とすることを前提に、B社を含めたベンダに改めて提案を求めることになりました。

 ポイント  システム監査の対象は一般に、情報システムの安全性・信頼性・効率性と言われていますが、システム開発の問題点や、この事例のような費用対効果の評価など、多岐に渡ります。運用中のシステムの問題に比べると、開発時の問題は、ベンダとの取引関係や責任問題など、システム的な視点だけでは解消できない問題を孕んでいます。この事例の費用対効果は、ベンダの営業に伴うものですから、一定のバイアスが入っていることは容易に見てとれます。他方で、危なそうなものをただ排斥するだけでは、有利な投資機会を失うことにもなります。ITSのシステム監査は、法的な視点からのアプローチを含め、こうした複雑な対象についても、弁護士として中立・独立の立場から的確に対処できます。

smart_displayシステム監査報告書(助言型)例

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。

ウェブサイトのセキュリティ対策について、保証型のシステム監査を行った事例です。

 事案   趣味の稀覯品に特化した専門オークションサイトを運営するA社では、サイトのセキュリティ・ホールを利用してオークションシステムを不正に操作し、落札を受けるという不正が起こりました。しかも、セキュリティ・ホールの内容は掲示板で公開されてしまったため、わずか2日の間に30件を超える不正が行われてしまいました。A社では、セキュリティ・ホールをふさぐとともに、システムログから不正を行った会員を特定し、退会等の処分を行いました。しかし、退会させられた会員から、セキュリティ・ホールはオークション・システムの致命的なバグであって未だ根本的な対応はなされておらず、退会等の処分も誤って科されているとの噂が流され、脱会者が出るなどの騒動となってしまいました。A社は、サイト上で説明を試みたものの、会員の理解を得られない状況が続いていたため、ITSにシステム監査を依頼しました。

 解決  A社自身による説明は、「対応した」という限度のもので、ITリテラシーの高い会員の納得を得られるものではありませんでした。他方で、詳しく情報を出し過ぎると、セキュリティ上の秘密も明かになってしまうため、それにも限界があります。そこで、保証型のシステム監査を実施し、セキュリティ・ホールの内容、対応のための考え方・方策、そのための(外部委託者を含めた)体制、セキュリティ問題に対する継続監視のための方針などについて、調査やヒアリングに基づいて「十分と認められる」との結論を出しました。そして、監査報告書をサイトに掲示するほか会員個々にに送付し、サイトでは継続監視の状況を適宜報告する体制を敷きました。これにより、当初は掲示板での批判や個別の照会が残ったものの、一時は20%近く減少した会員数も3か月ほどでほぼ回復するに至りました。

 ポイント  企業の不祥事をきっかけにした内部統制の法制化に伴い、企業の説明責任(accountability)がクローズアップされていますが、これは当然、企業の最大の利害関係者である消費者にも向けられるべきものです。他方、企業外部のステークホルダーに説明責任を果たそうとする場合、常に、説明の必要性と情報流出のジレンマに悩まされます。この事例では、事がセキュリティ問題であったために、そのジレンマも深刻でしたが、保証型のシステム監査による、「中立的な専門家であるシステム監査人の保証」を組み込むことで、事態を収めています。同様の事案で、更に込み入った案件、大規模な案件の場合、弁護士や会計士等による第三者委員会を組織して対処することも行われますが、その場合の報告書には保証型の(システム)監査報告書の性質があると言えるでしょう。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。

ITベンチャーの新規事業について、第三者委員会を組織してシステム監査を行った事例です。

 事案   IT系のベンチャー・ビジネスであるA社は、SaaSを中心としたクラウド・サービスで業績を伸ばしていました。また、そこで培った技術を生かした新規の事業分野への進出にも積極的で、2~3か月に1件はパイロット・プロジェクトを立ち上げていました。ところが、非常に有望と思われた新規事業の一つが、稼働直前になってプライバシー保護上の問題があるとの疑いが生じました。いろいろとリカバリーを試みたものの、現状の事業スキームのままでは問題を取り除ける目処は立ちませんでした。結局、実稼働は見送りとなり、投入した資金も無駄に終わりました。そこで、事後の新規事業については、第三者委員会を組織して監査することとし、ITSに法律問題についての委員を依頼しました。

 解決  新規事業は社内の有志が企画し、その事業性・収益性については当然、経営会議が会社としての判断を下します。第三者委員会はこれとは別に、経営から独立した委員会が、技術、法律、倫理の観点から新規事業を評価するというものです。委員は各分野の外部専門家(技術者、弁護士、学者)に委嘱されましたが、各領域は相互に関連しているため、委員会として相当の協議を経たうえ、監査報告書をもって会社に助言するという形が採られました。初年度は4件の監査が行われ、うち1件で技術上のフィージビリティにつき疑義が出され(他社技術の導入により回避)、別の1件で業法違反が指摘され(一部事業縮小することで回避)ましたが、ひとまず4件とも実稼働に漕ぎ着けました。

 ポイント  新規事業の企画の際は、事業性や収益性に目が行きがちですが、リスクについても慎重な判断が必要です。その点A社では、バイアスのない専門的・中立的な判断を重視したこと、会社の現有人材は現業に注力させたかったことから、外部の力を借りることにしたものです。第三者委員会は、不祥事や事故の後始末として組織されることがが多いものですが、ここでは前向きの経営課題がテーマであったため、社外への説明を意識した厳格な手続はあえて採りませんでした。協議なども極めてオープンな形で行い、適宜、会社の責任者を交えたウォークスルーも試みました。その結果、社内に外部専門家の知見や問題意識が導入されるなど、副次的な効果も得られました。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。

クラウド型サービスに関する訴訟の進行について助言した、典型的なセカンドオピニオンの事例です。

 事案   大手旅行会社であるA社は、B社のクラウド(SaaS)型ウェブ解析サービスを導入しようと、1か月間の試用により、同サービスの機能や性能について評価を行いました。しかし、同サービスはA社の要求する解析レベルを満たさなかったので、結局、導入は断念しました。ところが、半年ほど経って、試用の際のIDが継続的に使用されているので規定により代金請求するとの通知が来ました。A社にはまったく身に覚えがなかったので断ったところ、間もなく提訴されました。A社は知り合いの弁護士に訴訟委任して、3回ほど期日が経過しましたが、システムの技術的な部分についてどのようなやり取りがされているのか、十分に理解できず、不安に感じたため、ITSにセカンドオピニオンを求めました。

 解決  ITSでは、技術的な関連資料と共に、それまでの訴訟資料をチェックしました。サービス約款の有効性、ID管理の責任関係など主な論点について、概ね正確な主張立証がなされていましたが、最大の争点は、第三者によるIDの不正利用の有無であり、この点についての技術的な説明が足りていない点のあることが分かりました。そこで、その旨を代理人弁護士を含めて報告すると共に、IDの不正利用の技術的な説明をした報告書を提出しました。その結果、6回目の期日までに、B社自身が第三者の不正利用であることを理解するに至りました。他方、A社のID管理にも若干の問題があった可能性が判明しましたが、サービスの性質上、B社には実損が殆どなかったことから、ゼロ和解の結果となりました。

 ポイント  この事案は、人違い型のいわば「えん罪」でしたが、サーバでのログ管理が不十分であったため、使われていたIDは分かっていたものの、現実の利用者(サーバ)の特定が出来ていないまま、訴訟にまで至っていました。もっとも、残っていたログその他の通信記録とネットワーク構成から、おおよその推測(利用していたのがA社のサーバなのか否か程度の特定)は可能であったことから、残りの期日ではその点の主張立証が行われるよう、誘導したのが奏功しました。この事案ではB社も被害者であり、何ら悪意があったわけではありませんが、訴訟を提起してしまった以上、ともかく考えられる主張立証はすべてせざるを得ない状況でした。そのような中で論点を誤って責任論などに深入りすると、おかしな方向に流れる危険があった事例です。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。