事例① 交渉材料としてのIT鑑定

相手方との交渉を始める前に、事案の見極めをするために鑑定を行った事例です。

 事案   システムベンダであるA社は、十年来のつき合いのあるB社の新ウェブシステムの構築を5000万円で請け負い、本稼働にこぎ着けました。ところが、本稼働に入ってみると、画面遷移やデータ更新といった基本的なところで次々とバグが見つかり、業務に大きな影響を与えました。原因は、納期に間に合わせるために急遽投入した再委託先の担当者の能力が十分でなく、テストに大きな漏れがあったことで、A社の責任は明らかでした。B社の担当役員は怒り心頭で、A社に1億円の損害賠償を求めてきました。A社は、B社に迷惑をかけたこと、相当の損害を与えたことは事実だとしても、賠償額の1億円はあまりに途方もない金額だったので、何度もA社と話し合いを持ちました。しかし、B社の担当役員は、「倍返しだ」、「これくらい当たり前だ」と言うばかりで解決の糸口すらつかめませんでした。そこで、A社はITSに、賠償すべき損害額として幾らが妥当なのか、鑑定を依頼しました。

 解決  ITSは、簡易鑑定として、要件定義書や障害一覧などの必要資料の提出を求めたうえ、A社の責任者と主担当者へのヒアリングを2回行いました。そして、法的に賠償すべき損害を、データ補正のための外注費と逸失利益の一部を中心とする450万円~600万円と算定しました。A社は、この簡易鑑定を基に、「法的に責任を負うべき損害については、支払う用意がある」として、再度B社と交渉しました。結局、A社は、トラブルに対して正式に謝罪するとともに、損害賠償として500万円を支払うだけで済みました。B社の言い値の20分の1だったわけです。また、ITSの指導の下、品質管理・再委託先管理を中心とした再発防止策を構築したところ、間もなく、その成果を評価したB社との関係も回復し、新たに拠点間販売管理システムを受注する運びとなりました。

 ポイント  ベンダに責任のあるトラブルによってユーザに損害が発生したことが明らかな場合でも、法的に賠償すべき損害が幾らであるかは、実は極めて難しい問題です。交通事故に伴う損害賠償のように、一般的な基準(相場)が形成されている分野と異なり、IT紛争では損害賠償も「カスタムメイド」なのです。トラブル対応に追われた従業員の慰謝料のようなものは入るのか、逸失利益はどこまで含まれるのか、当事者同士での交渉を難しくします。また、訴訟となった場合に、賠償の対象となる損害を立証することは、思いのほか困難であることも考慮に入れておかなければなりません。そのような場合に鑑定サービスによって「もし裁判したとすれば、結局幾らになるのか」という落とし所を知っておけば、交渉にもブレがなくなりますし、訴訟など次のステップに進む必要性やタイミングも計りやすくなります。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。