事例① IT訴訟から調停へ
システム開発系のIT紛争を、裁判所での訴訟から専門調停に移行して解決した事例です。
事案 システムベンダのA社は、通信機器メーカであるB社から、ERPパッケージをベースとする販売管理システムのカスタマイズ開発を、7500万円で受注しました。開発途中にカスタマイズが当初の想定を超えて膨らむ見込み違いはあったものの、約10か月の期限内にシステムを納品、ほどなくB社の検収も完了しました。ところが、本稼働の直前になって、B社は、納品されたシステムが委託倉庫での在庫管理にまったく対応できていないことが判明したとして、代金支払を拒否し、契約を一方的に解除してきました。A社としては寝耳に水の話であったので、部門長と担当役員が特命担当となり、B社と計10回以上に及ぶ協議を重ねましたがまったく進展せず、ITSに訴訟を委任することになりました。
解決 既に当事者間の協議が尽くされた後だったため、ITSでは早々に訴訟提起したうえ、専門調停に移行するよう裁判所に働きかけました。B社が解除の理由としている在庫管理の問題が鍵となると考えたためです。この点を、6回の調停期日を使って互いに主張、立証したところ、開発が始まる直前にB社が吸収合併した会社の倉庫での管理方法が当初想定のものと大きく異なること、その点B社の担当者はERPパッケージのオリジナル機能で対応可能と考えていたこと、さらに、A社からの問合せに対しても機能自体不要と回答していたことが分かりました。調停委員からは、A社の勝訴ベースで考えざるを得ないとの見解が示され、その結果、B社が6500万円を支払う和解としたうえで、新たに2500万円で問題の在庫管理方式への対応を行う契約を別途締結することになりました。
ポイント B社が解除の理由としていた在庫管理の問題は、開発に入ってから殆ど話に上っていなかったため、その点の具体的な内容ややり取りの経緯が解決の鍵となることは明らかでした。そのため、訴状もその点に絞って争点を明確にしたうえ、専門調停への付調停の希望を出しました。当事者間の協議が不調で裁判にまで持ち込まれた場合、本件のように、(執行ができない)将来の関係が予定された合意がなされることは稀です。本件の場合は、在庫管理の問題を除けば納品したシステムの機能・品質が十分であったことのほか、専門調停の中で、責任関係がかなり明白に現れ出たこと、問題の在庫管理方式への再カスタマイズが見通せる程度に技術的な検討も行われたことから、このような解決が可能となったものです。