事例③ 直接交渉による示談
営業秘密の侵害について、相手方との直接交渉により示談した事例です。
事案 精密機器のメーカーであるA社は、ある時インターネットのブログ上に、機密としていた自社ノウハウの一部が掲載されていることを発見しました。ブログの内容やその他の調査情報から、この1~2年にA社を辞めた元従業員のうちの誰かが、自ら関与していた技術を持ち出して、これをベースにした製品開発を手掛けるベンチャーを設立しようとしているらしいことが分かりました。明らかにA社の営業秘密の侵害で、もし製品が販売されてしまえば、A社の権利利益が大きく害されてしまいます。しかし、この段階では、実際の侵害者が誰であるのか特定することすらできず、ブログでの機密の漏えいを黙って見ているしかありませんでした。そこで、A社は早期解決のための示談交渉をITSに依頼しました。
解決 ITSは、まずブログ運営会社に対し、同社の規約に基づく記事の削除を依頼しました。幸か不幸か、営業秘密の記載が明白だったため、裁判外の請求で記事は直ちに削除され、ひとまず二次漏えいを止めることができました。次に、侵害者を特定するため、問題のブログの発信者情報の開示を求めました。これについては任意の開示は得られなかったものの、すぐ仮処分に切り換えて申立てたところ、開示されたIPアドレスが元役員のBから来たメールの送信元と一致したため、直ちに事実上の特定ができました。ここまでの調査結果を基に、B及び、最終的にはBと組んでベンチャーを企画していたCも交えて直接交渉し、結局、退職金全額相当の損害賠償金と、ノウハウの使用は許容することと引き換えの割増ロイヤリティーを支払う内容の示談で決着しました。
ポイント A社の営業秘密を利用した製品が市場に出る前の解決が急がれた事案です。そのため、出来るだけ裁判外での早期進展を目指しましたが、その意味では、Bがブログで得意げにノウハウを開陳していたことや、電子メールのアドレスとの一致から1回の開示請求でBを特定できたこともあり、想定以上の早期の示談が実現できました。示談において、Bらによる営業秘密の利用を認めたのは、製品自体はA社のビジネスと競合しなかったこと、製品開発はほぼ完了しておりその販売を許した方が賠償等の原資を確保し易かったこと、B自身に利用させた方がノウハウの二次流出の抑止になると考えられたためです。ベンチャー立上げを願っていたCも加わったことにより、交渉は非常に有利なビジネス交渉の様相を呈していました。