事例③ 和解のためのIT鑑定

共同開発に関する訴訟と並行して、和解を進めるためにIT鑑定を行った事例です。

 事案   ウェブ系の開発ベンダであるA社とB社は、懸賞ビジネス向けポータルサイト・フレームを共同開発することにしました。それぞれの強みを生かす形で、A社は主にウェブ制御技術を、B社は主にデザイン・コンテンツを持ち寄って開発を進めていましたが、次第に製品コンセプトに関する見解の違いが広がり、それぞれが独自の開発を進める事態となってしまいました。その後、両社はそれぞれの特長を持った独立の製品を完成・販売し、ニッチ市場ながらマーケットを二分するに至りました。しかし、当初の共同開発契約は事実上破棄されており、互いが利用し合っている技術やコンテンツについての(主に著作権の)許諾も消滅した状態です。A社はB社の製品の販売差し止めと損害賠償を求めて提訴、B社もA社に対して同様の反訴を提起しました。訴訟は泥沼化しましたが、判決に至れば本訴・反訴とも認容となって、ビジネスの停止を来すことは目に見えています。そのため、訴訟の内外で和解のための話し合いが進められていましたが、その中で、A社がITSに和解のための鑑定を依頼しました。

 解決  両社の製品は、同一市場ながら基本的なコンセプトが異なっており、それぞれの顧客を獲得していた状況であったため、いまさら共同開発に戻して製品を一本化する選択肢はありませんでした。つまり、両製品の将来にわたっての併存を認めたうえで、双方が拠出した技術やコンテンツの価値をライセンス料として評価し、これを授受し合う以外に解決はありません。そこで、ITSでは、問題となっている技術やコンテンツの客観的価値、これが各製品に占める寄与度を算定して、売上規模に応じたライセンス料に引き直しました。同時にB社側でも、同様の鑑定意見を出してきましたが、差異は調整できないほど大きいものではありませんでした。両社は、これらの鑑定意見を基に協議を重ね、結果的に、A社側の鑑定意見に近い水準のライセンス料を授受することで裁判上の和解に至りました。

 ポイント  和解交渉に鑑定が用いられたわけですが、早期和解に漕ぎ着けてビジネス停止を避けるため、双方がより納得し易い客観性・合理性が特に重視された事例です。鑑定では、単なるライセンス料の算定だけでなく、ビジネス的な視点を加えて、両社の理解と納得を得易いものになるよう、工夫がなされました。例えば、両製品の市場シェアに応じて、当初の共同開発が継続していたと仮定した場合と比較して利益がどのように変わるか、といった試算もなされました。両製品とも市場でそれなりに成功しており、「プラスのパイ」が目の前に見えていたことも、和解協議においては幸いしました。両社は、同一市場でそれぞれの製品をもって「我が道を往く」競合企業ではあり続けたものの、相手製品の売上によってもライセンス収入が上がるようになったことから、その後一定程度の協力関係を回復したようです。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。