IT法務の基本③ サービス契約

 IT系の業務委託契約としては、システム開発やインフラの敷設といった請負類型のものも重要ですが、実数として(圧倒的に)多いのは、準委任類型のサービス系の契約です。多くの場合、期間に応じた報酬体系となっており、サービス業務が提供される限りはそれに応じた報酬の支払義務が発生します。
 サービス契約の場合、システム開発契約のように、合意が不明確なままに着手されることは通常はありません。ただ、新規開発のシステムの開発ベンダが稼働後に保守を担当する場合、稼働当初は不具合の対応に追われるなどして、開発契約から保守契約への切替の時期が不明確となるといったことはあります。
 サービス遂行中のトラブルの場合、その内容や程度によっては契約を解除することができますが、あくまで将来分を解除するにとどまり、遂行済みの部分を解除して報酬の返還を請求することはできないのが原則です。ただし、遂行結果に問題があり、それに起因して損害が生じている場合は、損害賠償請求することができます。

サービス契約 TOPICS (7)

準委任契約

 準委任契約は、請負契約と異なり、仕事の完成ではなく、業務の遂行に対して報酬が支払われます。また、受託者は、契約不適合(瑕疵担保)責任のような、業務の結果(あるいは品質)に対する責任は負いません。他方で、受任者との信頼関係を基礎とした契約であるため、再委託は原則として禁止されます。
 もっとも、債権法改正により、準委任であっても成果に対して報酬が支払われる類型が明文化されました。仕事の完成を要しない点ではあくまで準委任ですが、請負に接近するものと位置付けられます。要件定義や現状調査のような無定形の成果のある業務の委託に用いられることになると考えられます。 smart_display請負と委任にまつわる3つの誤解

SLA(Service Level Agreement)

 あるサービスを提供する事業者(ベンダ)とその利用者(ユーザ)との間で、サービス契約に付随して結ばれるサービスレベルに関する合意をいいます。サービス契約におけるサービスレベルの保証水準を表したものと言え、多くの場合、この保障水準を達成できない場合の(段階的な)ペナルティが定められていることが特徴です。
 準委任のように品質に対する担保責任のない契約類型において、サービスの品質についての契約上の穴を補充する意味があります。逆に、請負のような担保責任のある契約類型のサービスに設定されることもありますが、この場合は品質基準を明確化することに意味があると言えます。 smart_displayサービス・レベル・アグリーメント(SLA)による品質の担保

業務委託契約

 業務委託契約でいう「委託」は「委任」と似ていますが、一定の役務提供を依頼することを表すものですので、法的には請負とも準委任とも結びつきます。業務の性質や契約条件から区別できる場合もありますが、いずれの契約類型を想定しているのか、当事者間でしっかり認識合わせをしておくことが必要です。
 多くは請負となるシステム開発契約のほか、後述する、運用・保守契約、コンサルティング契約、SES、SEO契約なども、業務委託契約の一種と言えます。このように、業務委託契約は多様な契約を包含するもので、それだけでは契約条件が定まらない(法律上のデフォルトや実務上の取引慣習で補えない)ため、契約類型のほか、業務内容、契約期間、更新や解約の扱い、報酬とその支払条件等について、契約で明確化することが不可欠です。

情報システムの運用・保守契約

 情報システムの開発契約と並んで、大半の企業が経験するIT契約の代表と言えます。基幹システムであれば、オンサイトで情報システム部員と協働することが多く、業務委託ではなく派遣労働に頼ることも少なくありません。
 通常は準委任契約ですが、保守の中にはプログラムの改修など、請負の性質を持つ業務も含まれるため、約定に注意を要します。また、業務に当たる要員数、日数、時間数にどのような制約を置くのか(置かないのか)、それらと報酬はどのように連動させるのか(させないのか)、運用・保守業務の内容をどのように範囲付けるのか(付けないのか)も、重要です。 smart_display情報システムの保守と障害切り分け

コンサルティング契約

 一般には専門的事項について指導・助言等を行う契約をいいます。IT系の場合、情報システムの企画・立案や運用改善のための調査・評価等に関与する場合が典型です。通常は準委任とされますが、一定の知的成果を生み出す場合は請負となり得ます。システム開発契約の超上流工程に関与する場合、実質は開発契約の一部(請負)であると評価されることもあります。
 稼働後でないと品質が明らかにならない特質があるため、短期契約の更新制とする、対象業務を詳細に定義する、何らかの成果と連動した契約とする、といった対応が取られたりします。情報システム部門の専門性に不安のある中小企業では、外部のコンサルタントを顧問のような位置づけで意思決定に関与させることがありますが、企業側での十分なコントロールが効かない例が散見され、注意を要します。

SES(System Engineering Service)

 IT業界で古くからあるサービス業務で、多くの場合、企業やプロジェクトの現場に常駐して技術系のサービス業務に従事します。サービス内容としては、情報システムの開発や保守、運用オペレーション、技術支援等、多岐に渡ります。
 一般に準委任形態の業務委託と位置付けられていますが、実態として、受託者が委託者から直接の指揮命令を受けているのではないかと疑われる場合もあります。そのような場合は、派遣法や労働関係法規の厳しい規制を潜脱する、いわゆる偽装請負の問題となります。受託者側に裁量の余地のある業務内容とすること、受託者側の管理者を明確にしておくことが最低限必要です。

SEO(Search Engine Optimization)

 検索エンジンの検索結果において、ウェブサイトがより多く露出されるようにするために行う最適化の取組みを言います。ターゲットとするキーワードの選定、当該キーワードでのランキングの上昇、クリック率の向上等を通して、サイトへの流入やサイト経由の売上といった目的達成を図るものです。
 SEOは自社でもできますが、一定の知見や手間を要することもあり、多くのベンダがサービスとして提供しています。本来は成果を保証しない準委任契約ですが、成果に目が行きがちなユーザとトラブルになるケースが少なくないため、成果と連動した報酬とすることもあります。ただ、短期的な成果と中長期的な成果とが必ずしもリンクしないことがあるため、十分な合意が必要です。