IT法務の基本① 契約と契約書

 契約は、契約の申込みとこれに対する承諾によって成立します。保証など一部の類型の契約を除けば、申込みや承諾は口頭でも構いません。
 逆に言えば、契約書がなくても契約は成立するということですが、契約の成否や内容についてのトラブルを避けるために、契約書は必ず取り交わすべきです。万一訴訟となった場合は、重要な証拠となります。
 契約が成立すると、契約当事者(例えば、買手であるユーザと売手であるベンダ)は、契約の内容どおりの権利を取得し、義務を負うことになります。契約に基づく義務は任意に履行するのが基本であり、多少のトラブルが生じても、多くは話し合いで解決されるのが通常です。
 それでも、関係がこじれてしまい、一方が完全に履行を拒むといった事態に陥ることもあります。このような場面でこそ契約の効力が期待されるわけですが、そのままでは契約に強制力はありません。訴訟を提起し、債務名義となる勝訴判決を得て初めて、強制執行することができるようになります。

契約と契約書 TOPICS (6)

契約条項と法律上のデフォルト

 契約書に条項が記載されていれば、法令に違反しない限りはその内容が有効となりますが、記載のない事項については、商法や民法に定められている法律上のデフォルトで補充されます。その意味で、契約書上の各条項は、法律上のデフォルトに対する特約という位置付けとなります。対象となる取引の性質に応じた条項を記載しておくことが望ましいですが、それらの記載がないからといって直ちに問題を生ずるわけではありません。
 他方で、契約の目的物や代金などについては、当然のことながら、法律上のデフフォルトは定められていません。そのため、契約書上の記載が不十分であると、契約内容が不明確となるばかりでなく、それ自体がトラブルの種となります。「営業システム一式」といった契約は、絶対に避けなければなりません。

基本契約書と個別契約書

 同じ相手方と継続的に取引を行う場合、契約書を基本契約書と個別契約書に分けることがあります。基本契約書は、支払条件や解除事由など、全ての取引に共通の条項を規定し、取引の最初に1回だけ(又は取引の類型ごとに1回だけ)締結しておきます。個別契約書は、数量や納期など、取引ごとに異なる条項を規定し、取引の都度締結します。
 基本契約書を用いると、取引条件の標準化が図られるほか、取引の都度条件交渉を行う必要がなくなって省力化を図れるなどのメリットがあります。反面で、基本契約書の条件にはそぐわない取引でも、条件の見直しを行わないまま契約してしまいがちであり、注意が必要です。

注文書による契約

 基本契約書を用いる場合、個別契約書は比較的単純なものになることが多いため、その代わりに注文書を用いることがあります。基本契約書を用いない場合でも、契約そのものが単純な場合には注文書を用いることがあります。注文書(申込み)に対して注文請書(承諾)が発行されて契約成立となるのが本来ですが、承諾は電子メールのような簡易な方法で済まされることも少なくありません。
 いずれにしても、紙(注文書)1枚に納まるくらいに記載事項が少ないことが前提ですが、簡素を求めるあまり、必要な記載事項まで漏らしてしまうことがあります。特に、基本契約書を前提とした注文書の書式を基本契約書なしで用いる場合は、注意を要します。

見積書を引き継ぐ契約

 見積書は契約書ではありませんが、見積金額のほか、一定の契約条件(厳密に言えば見積条件)の記載があるのが通常です。そこで、契約条件については見積書の記載を当てにして、後は条件らしい条件が書かれてない注文書(と請書)だけで契約を締結する場合があります。このような契約方法も有効ではありますが、見積書に記載された条件が契約に引き継がれるのかどうかが不明確なケースが散見されます。少なくとも、注文書に、特定の見積書に記載された条件で注文する、などと明記しておく程度の考慮は必要です。
 提案書やRFPといった文書の場合も、記載されている条件を確実に契約に引き継ぐためには同様の考慮が必要です。

約款による契約

 IT系の契約では、特殊な締結方法が採られることがあります。例えば、媒体のラップを破って開封することで契約成立とするシュリンクラップ契約、ダウンロードやサービス開始のためのボタンをクリックすることで契約成立とするクリックオン契約などです。このような方法による契約も、開封やクリックにより契約が成立する旨と約款(契約条件)があらかじめ示されていれば、有効であると考えられています。
 債権法の改正により、こうした契約の約款の多くは、「定型約款」に該当することになると考えられます。その場合、締結時に現実に約款を示す必要がなくなる(約款による旨が示されていれば、請求があった場合に示せば足りる)一方で、不当条項や不意打ち条項が効力を否定されるといった規律に服することになります。

契約関係の解消

 いったん契約が成立した後は、契約当事者は契約に拘束されますので、たとえ契約から不利益を受ける場合であっても、契約を一方的に破棄することはできません。一方的に破棄してしまうと、そのこと自体が契約違反となり、損害賠償等の責任を問われます。契約の成立後に契約関係を解消することができるのは、当事者双方の合意で解約する場合のほか、契約や法律で定められている解除の要件を満たす場合(例えば、相手方に一定の契約違反がある場合)に限られます。
 もちろん、契約の解消や変更を求めて協議することはできますが、相手方が応じなければ叶いません。契約関係に入る前の段階で、慎重な判断が求められます。