③弁護団の一員としての技術立証

IT訴訟の弁護団に加わり、IT技術者と共同でプログラム・ロジックに関する技術立証を行った事例です。

 事案   総合IT商社であったA社は、自社ポイントの発行、他社ポイントとの交換サービスの運営、電子マネーやゲーム内通貨の取扱いなどを足掛かりに、クレジットカードや仮想通貨とも連携するフィンテック・サービスへの進出を企画していました。そのような中、電子マネー交換システムのダウンが原因で、交換手続中であった電子マネーが全て消失するという事故が発生しました。消失した電子マネーは総額で3億円程度と見積もられましたが、直ちにその全額を賠償する方針を利用者に示しました。ところが、システムの不備で対象金額に関する確実な記録が存在しなかったことから、利用者から疑念の声が上がり、大口の利用者から提訴されてしまいました。訴訟自体は、敗訴額の上限がおおむね想定できるものであったため、当初は粛々と進んでいましたが、訴訟の追行中に別の重大な問題が生じたため、ITSが弁護団の一員に加わることになりました。

 解決  重大な問題とは、訴訟の中で証拠として提出した交換残高把握のためのプログラム・モジュールに、不正ロジックが組み込まれているのではないかと疑われたことです。相手方は、これを交換残高を意図的に縮小するための詐欺ロジックであると攻撃し、請求額を大幅に拡張したうえ外部の報道にも流しました。このようなことが認められてしまうと、高額の敗訴金を負担するばかりでなく、フィンテック事業者としての信用が著しく傷つけられ、将来のサービス拡張に大きな支障が生てしまいます。そこでITSは、弁護団の他メンバーと訴訟の進行について調整すると同時に、IT技術者と共同で不正ロジックが存在しないことの立証活動に取り組みました。結果、例外的な条件でロジックに不具合のあることは判明したものの、開発資料との突合により意図的なものではなくバグに過ぎないものであることを立証できました。その過程で、ほぼ正確な交換残高を算出する方法も見つかり、当初見積り程度の敗訴額で訴訟を終えることができました。

 ポイント  それなりのビジネスを展開していれば、何がしかのトラブルに見舞われるのは避けがたいことです。これが請求する側に立つ場合であれば、十分な立証手段があるかどうかを判断したうえで事を起こすことができますが、請求される側に立つ場合は、否応なしに訴訟等に巻き込まれます。降りかかる火の粉は振り払わなければならないわけですが、訴訟となれば、(たとえ不当な請求であっても)立証手段を欠くとそれも叶いません。本事案では、ITSは弁護団の一員として、通常の訴訟追行を担当するメンバーと立証の鍵を握るIT技術者の連節点として機能したわけですが、何より、(相当の解読作業を要したとはいえ)開発資料を掘り出したことが訴訟の重大なターニングポイントとなりました。IT系の事業者には、往々にして記録化やドキュメント化の意識に欠ける傾向が見られますが、事業の拡大に伴い意識の変革が望まれるところです。

※ この事例は説明用のもので、実際の事件とは一切関係がありません。