システム開発委託のモデル契約書

 システム開発委託のモデル契約書で良く利用されているのは、経産省の研究会による「情報システム・モデル取引・契約書」で、伝統的な受託開発中心の第一版の後、中小企業でのパッケージ利用等を意識した追補版も出ています。超上流工程やマネジメントの重視、変更管理の徹底、重要事項説明書の導入など、システム開発に固有の論点に様々な知見を盛り込んでいます。従来からあったJISAやJEITAのモデル契約書も、経産省のものをベースに改訂されています。
 しかし、これらは多数の条項からなる、いかにも「重い」契約書です。残念ながら、中小企業には(ベンダであっても)、とても使いこなせないというのが実情です。しかも、条項がある以上、契約リスクの配分に影響しますから、言いなりに判を押すのでない限り、その一々が締結前の交渉のテーブルに載せられます。場合によっては、どのような場面を想定しているのかも分からない条項について、その理解から始まって、細かな文言修正まで何度も契約書案が行き来します。同じ経産省が委託事業の成果として出している「情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集」では、契約締結の遅れが正式契約前の作業着手を招いている面があるとして、迅速な契約締結のためのツールとしてモデル契約書を位置づけています。しかし、実際のところ、「重い」契約書が反って迅速な締結を阻んで、正式契約前の着手を生んでしまい兼ねません。
 細かな条項も、それ自体はあるに越したことはありません。しかし、当事者の能力や契約の規模にもよりますが、重要な契約条件をそれらの条項に埋もらせてしまうよりは、システム開発委託での典型論点である、再委託の可否・条件、作業やマネジメントの責任分担、、変更管理、著作権等の権利帰属、損害賠償責任の範囲・限度額・期間、などに絞った契約書とする方が遥かに実務的ではないかと思われます。
 そして何より、開発対象のシステムの範囲・内容と代金の支払条件を明確にすることです。開発委託におけるトラブルが、そもそも何を請け負った契約なのかが不明確であることに起因するケースが非常に多いためです。未だに、「○○システム一式」などという場合も後を絶ちません。これと表裏一体で、代金(特に中間金)の趣旨がはっきりしないケースも、極めて多く見られます。極論すれば、一般条項など何もなくても(その場合は判例等で補充された民法の一般原則が適用されます)、これだけ決まっていれば関連紛争は半減するのではないかとすら思われます。ところが、世の契約実務では、IT法務的な意識が高いほど、却って経産省式の弊に陥っているのです。