プログラムの不正利用と賠償額(東京地判平13.5.16)

 事案  司法試験予備校である被告は、その校舎において、多数のコンピュータに正規のライセンスを得ていないパッケージ・プログラムがインストールされていたとして、その開発・販売元である原告(アドビ、マイクロソフト、アップル)からプログラムの使用差止、消去及び9500万円余(弁護士費用分を除く)の損害賠償の請求を受けた。
 提訴前の証拠保全手続により、対象とされた校舎にある219台のコンピュータのうち、検証が実施された136台については、無許諾のプログラム複製の事実が確認されている。この状況で、主に損害賠償額の算定につき、原告は、違法複製者に対する事後的な許諾料(相当の損害賠償額)は正規品の販売価格の2倍以上である、被告はプログラムの無断複製が発覚した後に、これらをすべて抹消し、新たに正規品を購入したから損害はない、として争った。

 判旨  原告の請求のうち、差止については、既に適法なプログラムに置き換えられたことから、理由なしとされた。
 損害賠償については、原告の主張を「本件全証拠によるも、そのような事実を認めることはできない。」と否定する一方で、被告の主張についても、「被告の原告らに対する著作権侵害行為(不法行為)は、被告が本件プログラムをインストールして複製したことによって成立し、これにより、被告は、本件プログラムの複製品の使用を中止すべき不作為義務を負うとともに、上記著作権侵害行為によって、原告らに与えた損害を賠償すべき義務を負う。そして、本件のように、顧客が正規品に示された販売代金を支払い、正規品を購入することによって、プログラムの正規複製品をインストールして複製した上、それを使用することができる地位を獲得する契約態様が採用されている場合においては、原告らの受けた損害額は、著作権法114条1項又は2項により、正規品小売価格と同額と解するのが最も妥当であることは前記のとおりである。その意味で、本件においては、原告らの受けた損害額は、被告が本件プログラムを違法に複製した時点において、既に確定しているとみるのが相当である。」として、事後的な損害の消滅を否定し、結局、「無許諾複製したプログラムの数に正規品1個当たりの小売価格を乗じた額」に136分の219を乗じた額である7700万円余(弁護士費用分を除く)を損害賠償額として認めた。

 コメント  日本では米国におけるような(原告は3社とも米国企業ですが)懲罰的損害賠償が認められていないこともあり、原告の主張はあっさり退けられています。原告は、ソフトウェア業界では正規の場合と違法な場合とでは価格格差があるというニュアンスの主張をしていますが、実際にそのような価格体系があるわけではなく、仮に倍額とする例があったとしても懲罰的賠償が裁判外で実現されただけ、と言えます。倍額賠償は、現行著作権法の草案にあったものの実現はしておらず、仮に一定の合理性があるとしても将来の立法課題でしょう。
 興味深いのは、被告の主張です。判決では、結果的に二重払いのようになり、遵法精神に目覚めて(?)正規品を購入した被告に酷なようにも見えるからです。しかし、判旨にもあるとおり、違法行為を起こした時点で損害賠償義務は確定し、事後に正規品を購入したからといって、遡って過去の損害賠償義務に影響を及ぼすわけではありません。損害賠償は過去分、正規品の購入は将来分、法的にはこの結論はやむを得ないと思われます。この点、被告は「ペイド・アップ方式によるシュリンク・ラップ使用許諾契約においては、同一プログラムの使用対価は一回払えば、永久且つ無制限に使用できるのであるから、その過去の使用分も遡及してカバーすると解すべき」との主張もしていますが、論理としては逆でしょう。結果的に二重払いになってしまったのは、むしろ「永久且つ無制限に使用」が途中で分断された結果です。もし、ASPのような期間課金であれば、過去分はその期間分の損害賠償、将来分はその期間分の利用料となって、二重払いにはならなかったはずです。うっかり購入したパッケージを紛失してしまって(事実として手元になくなったパッケージを回復するために)二回目を払うのと同様、違法行為が発覚して(法的に利用継続が許されないパッケージを適法に回復するために)二回目を支払うだけ、ということです。結果論ですが、このような二重払いは、賠償単価が卸売価格でも市場実勢価格でもなく定価と認められたことと相俟って、原告が求めた実質的なペナルティの意味を持ったと言えるかも知れません。
 なお、判決では、問題の校舎以外での無断複製は「使用目的、使用状況が異なると考えられる」として推認を否定しましたが、問題の校舎については、「西校校舎内における各コンピュータの使用態様は、本件検証の対象とされた136台と対象とされなかった83台との間で相違がないものと解するのが合理的」として推認を認めました。著作権侵害による損害においては、いわゆる”暗数”の存在(懲罰的賠償の根拠の一つとして挙げられることもあります)をどのように評価するかが問題となりますが、一つの参考になると思われます。